「生食用食鳥肉の衛生基準」の改訂が鳥刺しに及ぼす影響について(平成30年9月議会個人質疑より)
平成30年9月議会の個人質疑に登壇し「「生食用食鳥肉の衛生基準」の改訂が鳥刺しに及ぼす影響について」というテーマで市の担当部局(健康福祉局・保健所)と質疑を交わしました。
ことの起こりは、昨年(平成29年)3月31日に厚生労働省から出された「カンピロバクター食中毒対策の推進について」という通知。
これによって国の鳥の生食に対する規制が強まりました。
さらに、今年3月29日に厚生労働省から「カンピロバクター食中毒事案に対する告発について」の通知。
これは、平成29年に発生したカンピロバクター食中毒を発生させた飲食店を国が集計したところ、約半数の飲食店が加熱用表示があるものを、生または加熱不十分な状態で客に提供していたことが判明したので、こうした悪質な業者に対して警察と連携して告発するようにという通知です。
これを受けて、今年5月に鹿児島県の「生食用食鳥肉の衛生基準」を改訂。
「生食用食鳥肉の衛生基準」は全国でも鹿児島と宮崎にしかなく、それぞれ県の定めたガイドラインで法的拘束力はないものの、生食用の鳥を扱う業者が守るべき手順を示しています。
これにより鹿児島と宮崎は他都道府県と比べ厳しい基準によって生食用の鳥肉の品質が担保されています。
※グラフは後述する森田洋之先生の記事より引用
その為、平成29年は飲食店等でのカンピロバクターによる食中毒の発生件数は鹿児島県は「0」。それ以前の年も全国と比べて低い数値を維持しています。
こうした努力を続けているにもかかわらず、県は衛生基準の「加工等基準目標」から筋胃・肝臓(ズリ・レバー)を除外。
県の「衛生基準」の改訂を受けて、鹿児島市の保健所が市内の食鳥処理業者・食肉販売業者に「生食用食鳥肉の衛生基準の一部改正について(お知らせ)」を配布。
こうした一連の流れの中で、保健所から関係業者に対して自粛に向けた指導が強まり、ズリ・レバーの販売が法的に禁止になったと誤解する食鳥業者、飲食店が後を絶たないことから、正確な情報を伝えるために質疑を交わしました。
なお、参考にした資料やデータとしてfacebookグループの「だって鳥刺しが好きだから」は鹿児島県人の鳥刺しに対する思い入れを感じることが出来、投稿の中から様々な示唆を頂きました。
医師の森田洋之先生の「本当に危険?レバ刺し・鳥刺し【医師直伝】〜実は少ない本場・鹿児島県民の食中毒!大切なのは「菌」ではなく「人」〜」は非常にわかりやすく、今回の質疑において理論武装の軸として参考にさせて頂きました。
朝日新聞の記事「鶏レバ刺しに潜む危険 本場で起きたルール変更とは」に一連の流れが綺麗にまとめられています。
記事の最後が
「何をどう食べるかは、本来、その人自身が決めることだと思います。ただ、何げなく注文した鶏刺しで苦しむことのないよう、どうぞ慎重に。レバーは、煮たり焼いたりしておいしくいただきましょうよ。」
と、まとめられていることも、普段鳥刺しを食べない地域や国の鳥刺しに対する感覚がどういうものかわからせてくれる良記事だと思います。
「パンがなければブリオッシュ(お菓子)を食べればいいじゃない」
という感覚。やはり、自分たちの食文化は自分たちの手で守らねば。
【質疑概要】※市長や局長の答弁の文字おこしを精査中です。アップするまでは音声で確認ください。
杉尾:
「生食用食鳥肉の衛生基準」の改訂が鳥刺しに及ぼす影響についてお尋ねします。
まず市長にお尋ねします。
鹿児島の郷土料理である鳥刺しに対して、市長はどのような所見をお持ちかお聞かせください。
市長:鳥肉の刺身につきましては、現在でも郷土料理の一つとして地元の人だけではなく観光客にも食されておりまして、他の郷土料理とともに地域に根差した大切な食文化であると考えておりますが、その一方で食の安全性の確保も大変重要なことであると考えております。
杉尾:市長より答弁頂きました。
仰るように鳥刺しは鹿児島の郷土料理のひとつであり、地域に根差した大切な食文化であります。
ところが、最近鳥刺し屋や居酒屋に行くと、メニューからこれまであったはずの「レバーと砂ずり」の刺身が消えている店が増えています。
近所の鳥刺し屋でも取り扱いがなくなっており、店主に聞くと「保健所から生食用禁止のお知らせが来た」と言われました。
この背景には本年5月に県の鳥刺しに関するガイドラインの改訂が関わっているようですので伺います。
本年5月に改訂された「生食用食鳥肉の衛生基準」の主な改訂内容についてお示しください。
健康福祉局長:県の生食用食鳥肉の衛生基準は、砂ずりと言われる筋胃や肝臓を含め生食用として販売・提供する食鳥肉について目標とする衛生管理の基準等を定めたもので、本年五月の改訂では、対象から筋胃と肝臓が除外されたところでございます。
杉尾:それでは、なぜ、この項目が削除されたのか。
加工基準の対象から「筋胃、肝臓」を除外した理由・背景についてお聞かせください。
健康福祉局長:県に伺いましたところ、一般的に筋胃や肝臓は解体作業時に腸管破損等による細菌汚染を受けやすく、細菌汚染調査でも肝臓でのカンピロバクター属菌等の検出率が高いなど微生物コントロールが難しいことから、衛生基準の対象から除外したとのことでございます。
杉尾:
除外した理由としてはカンピロバクターの検出率が高く、微生物コントロールが厳しいことであり、この除外理由を踏まえると、今回「筋胃と肝臓」を除外した意味というのは、県は今後、生食用の「筋胃、肝臓」の販売・提供を規制していく流れにうつるが、そう受け止めても良いのかお聞かせください。
健康福祉局長:県によりますと、生食用の筋胃、肝臓の販売・提供は厳しい基準を設けても安全性が担保できないことから、今後、販売・提供を自粛するよう営業者への指導を強化していくとのことでございます。
杉尾:
県としては今後、販売・提供を自粛。営業車への指導を強化していく方針ということです。
現在今回のレバー、砂ずりだけに限らず鳥刺し自体にも大変厳しい目が向けられています。
全国で鳥刺しによるカンピロバクター食中毒の事件があとを絶たず、後でも触れますが3月には厚生労働省が、鳥刺しに関して「カンピロバクター食中毒事案に対する告発について」という異例の通知を出し、国も鳥刺しに対する対策を強めています。
このように鳥の生食についてのリスクが訴えられる中、鹿児島の鳥刺し消費量は、おそらく全国でもトップクラスであり、1人あたりの鳥刺しの消費量では他都市と比べて何倍、何十倍になろうかと思います。
比例してカンピロバクターによる食中毒の発生リスクも高くなり、カンピロバクターによる食中毒の発生数も鹿児島は全国でも高い水準にあると思いますが、伺います。
カンピロバクターによる食中毒について、昨年のデータで全国の患者数と本県の患者数についてお示しください。
健康福祉局長:カンピロバクターを病因物質とする食中毒の発生は、二十九年中は全国において二千三百十五人の患者が発生し、全ての病因物質の中で二番目に多く、細菌性食中毒の中では最も多い患者数となっておりますが、本県では発生はございませんでした。
杉尾:答弁頂きましたが、さらに続けてお聞きします。
肉の生食に関しては、国において食品衛生法に基づいて「豚肉に関しては肉も肝臓も生食は禁止。」、「牛に関しては肝臓の生食禁止。」と、法的に規制されています。
それでは、同じく食品衛生法に基づき、鶏の「胃筋・肝臓」の生食についての規制はどのようになっているものかお聞かせください。
健康福祉局長:食品衛生法では食鳥の肝臓や筋胃を生食用として提供・販売することについて規制はありませんが、食中毒が発生した場合、回収命令や営業停止などの行政処分を受けることになります。
杉尾:
食品衛生法においては、鶏のレバー、砂ずりの生食について禁止されていないということが確認できました。
また、先ほどの答弁では平成29年のデータで、本県のカンピロバクターによる食中毒の発生件数は0。このことは、今回改訂された衛生基準の果たしてきた役割が大きかったと思っています。
この基準は全国でも鹿児島県と宮崎県の2県にしかなく、「鳥の生食」について、独自の厳しい基準を定めており、それを食鳥処理や販売をする業者の皆さんが忠実に守っていることを示している数字です。
先ほども少し触れましたが、3月29日に厚生労働省から「カンピロバクター食中毒事案に対する告発について」という通知が出されており、「平成29年に飲食店等で発生したカンピロバクター食中毒事例を集計した結果、約半数が、加熱用と書かれてある鶏肉を、生食として提供していたことが判明した」ので、こうした事案を発生した事業者に対して警察と連携して告発・厳正な措置をするようにという内容です。
厚生労働省がこの通知の根拠として集計した平成29年は先ほど答弁で明らかになった通り、本県のカンピロバクター食中毒の発生件数は0件であります。
鹿児島は衛生基準という、独自の厳しい基準の中で安心して食べられる鳥刺しを提供してきている中、県外の、一部の悪質な飲食店のしたことで、こうして努力を続けている鹿児島の鳥刺しにまで厳しい目をむけられ、こうした流れの中、県が今回砂ずり・レバーの生食を規制する方針をしたことは、到底納得できず、容認できません。
質問を準備する中で、本県と同じく衛生基準を定めている宮崎県の保健所に電話をして担当の方とお話をしましたが、宮崎県はレバーや砂ずりについて自粛する予定は今のところないと話されており、今回、県が自粛する方向を打ち出したことで、焼酎に続いて鳥刺しでも宮崎の後塵を拝すことになりかねず、このことは本市観光にも大きなダメージを与えることになります。
これらのことを踏まえて、この項の最後に今回の改訂を受け、市内の飲食店や鳥刺し屋で一部誤解や混乱が生じており、「保健所から生食禁止のお知らせが来た」と言って提供を中止している状況もありますことから、改めてお聞きします。
今回、県の衛生基準から「筋胃・肝臓」が除外されたことを受け、生食用の「筋胃・肝臓」の販売・提供は禁止されたのか。ひとことでお答えください。
健康福祉局長:現在、県の生食用食鳥肉の衛生基準から筋胃や肝臓は除外されておりますが、法令による禁止はされていないところでございます。
杉尾:局長の答弁を受けて一つだけ要請いたします。
今回の衛生基準の改訂で市内の多くの店が生食用の砂ずりとレバーの提供をやめました。
県の指導によって自粛が広がっていると思っていましたが、鳥刺し屋や飲食店を取材する中でわかったのは、いくつかの店がある誤解により販売をやめているということです。
誤解の原因になっているのは、本市が今年6月21日に、市内の食鳥処理業者と食肉販売業者に事務連絡で発送した「生食用食鳥肉の衛生基準の一部改正について」のお知らせ。にあります。
このお知らせには衛生基準の改正内容として「筋胃、肝臓を生食用の対象から除外」されたと記載しています。
今回の答弁からも明らかなとおり、食品衛生法に基づかずに、「生食用の対象から除外する」権限など県にあるはずもなく、ミスリードか明らかな間違いであります。
この間違いによって、いくつかの店では販売を中止しています。
早急に文書の差し替えもしくは訂正を発送する等、対応を講じられるよう要請します。